A Dog of Flanders「フランダースの犬」ラダーシリーズ

“A Dog of Flanders”のリトールド版。IBCラダーシリーズ Level 2です。「マッチ売りの少女」クラスの悲劇的な物語です。

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情報感想あらすじ

“A Dog of Flanders”書籍情報

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“A Dog of Flanders”感想

舞台となっているベルギーではほとんど知られていないイギリス人作家の短編小説ですが、日本ではアニメの大ヒットも後押しして、現在でも人気の作品。アニメではカラフルな映像があるので、まだしも心が救われるのですが、文章で読んでいると途中からイメージは灰色一色。涙腺の弱い読者にはまったくすすめられません。聞いた話では、アメリカ版では結末が変えられているのだとか。そっちで読みたいような、いや、フランダースの犬はこの結末でないと!とも思います。号泣😭に注意しながら読み進んで下さい。

最初の一文が物語のすべてという感じです。

Nello and Patrasche were left all alone in the world.
ネロとパトラッシュは、この世界で、たったふたりきりだった。

しばらくのあいだ、パトラッシュが犬だということは伏せられていて、「ふたりは同い年だが、片方はまだ若く、片方はすでに老いている」という、謎めいた始まりになっています。

パトラッシュは犬ですが、色々なことを考えています。「いくら仕事がきつくても、午後には終わるし、ねぎらってもらえるし、ネロと遊べるし、他の犬が夜まで働かされて、最後は蹴りとばされるのと比べたら天国だ」みたいなつぶやきが、パトラッシュを人間と錯覚させます。

一線を越えた

このリトールドの最大の問題点、あるいは快挙と言ってもいいのは、クライマックスのこのシーンです。

He went up and touched the face of the boy. “Did you dream that I could not be with you? I ー a dog?” he said to his master.
パトラッシュはそこまで行って、ネロの顔に触れた。「まさか、この僕が一緒に行けないとでも思ったの? 僕が犬だから?」パトラッシュはネロに言った

最後の最後で、パトラッシュがネロに話しかけたのです。ちなみに原作ではこうです。

He crept up and touched the face of the boy. “Didst thou dream that I should be faithless and forsake thee? I—a dog?” said that mute caress.
パトラッシュはそこまで這い上がって、ネロの顔に触れた。「僕が君を見捨てるほど不誠実だとでも思ったの? 僕が犬だから?」無言の愛撫がそう物語っていた。

こちらは、パトラッシュは黙ってネロの顔にすり寄っているのですが、それが言葉のように具体的に感じられたということになります。

ネロはもう意識も薄れかけているでしょうから、幻聴でパトラッシュの声が聞こえた!と計算したうえの表現なら見事です。冒頭の擬人化と対比できますしね。ただ “said that mute caress.”(無言の愛撫がそう言った)という部分をうまくリトールドできないから、もう「言った」にしちゃえ!とかなら、本を叩きつけたくなるところです。まあ、ここは、いい方に解釈しておきましょう。一線を越えたような気もしますが…。

本の前半は、貧しいながらも将来を夢見る少年、というストーリーなので、穏やかな気持ちで読めるのですが、不運に不運の重なる後半はページをめくるのがつらくなるほど。アメリカ人だけでなく、日本人も耐えられなかったのか、アニメではせめてものなぐさめとして、天使が出てくるのですが、あの有名なシーンは原作にはありませんからねえ。

ベルギー人の不思議

最初にも書いたように、この小説はベルギー人にとってなじみのうすいものです。原作は英語で、ベルギーで話されているのは、オランダ語・フランス語・ドイツ語ですから、知らなくても不思議ではありません。しかし、アントウェルペン大聖堂のルーベンス祭壇画の前で泣き出す日本人ツーリストが多いことから、その存在が認知されはじめ、1987年になってオランダ語に訳されたとのことです。日本のアニメは1975年ですから、だいぶ後ですね。2007年に作られたドキュメンタリー映画、”Patrasche A Dog of Flanders Made in Japan”(パトラッシュ、日本製フランダースの犬)には、このあたりの事情が描かれています。19世紀、都会に住むイギリス人にとって、犬は愛玩動物ですが、フランダース地方では使役犬だったので、そのカルチャーショックがこの作品の背後にあるのではないかというのは、説得力がありそうです。(作者は特別な愛犬家だったようで、平均して12匹の犬を飼い、贅沢なエサを与え、お墓も建てていたようです。また多数の動物虐待訴訟をしていたようです)映像には、日本人が話している部分や日本語アニメも多く、英語字幕もあります。

“A Dog of Flanders”あらすじ

パトラッシュという名の使役犬がいた。この犬は頑強な体のため、激しい労働をさせられることになるが、過酷な苦役に、力尽きて倒れる。殴られても蹴られても動かなくなったパトラッシュは、ゴミのように道ばたへ捨てられる。半死半生のパトラッシュを救ったのは、ネロという少年と彼の祖父イェーハン老人だった。手厚い介抱を受け、生まれて初めて愛情を与えられたパトラッシュは、歩けるようになるとみずからミルクの荷車をひこうとする。

弱った祖父の代わりに、ネロとパトラッシュはミルクを配達してわずかな手数料を稼ぎ、ぎりぎりの生活を保っている。パトラッシュはこの生活に満足しているが、ネロはパトラッシュには理解できない夢を持っていた。

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