ある程度TOEICに詳しい人なら常識だが、200問中の正解数と実際の得点は単純な正比例ではない。たとえば、満点はほぼ1000点なので1問は約5点、つまり100問正解すれば500点、とはならない。新形式の公式問題集から、正解した数(これを素点と呼んでいる)と、実際の得点(換算点と呼んでいる)の換算表をもとにグラフを作成してみた。上がリスニング、下がリーディングのグラフだ。
グラフの見方を説明すると、赤い線が正解1=5点とみなした線だ。この得点に対して、換算点には幅があり、最高なら緑の点になり、最低なら青い線になる。緑の線と青い線の間のオレンジ色のローソク足の長さが実際の点数の振れ幅となる。
グラフの横線は50点きざみなので、比べてみてほしい。ほぼ全得点域で、換算値は正解×5点のラインより下振れしており、ローソク足はリスニングでは約80点、リーディングでは約100点の高さがある。つまり、まったく同じ正解数でも、両パートを合わせると、実際の得点は約180点も振れる可能性があるということだ。ちなみに、上のグラフは常に利用される換算値ではなく、あくまでも参考値であることが、太字で注意書きしてある。つまり、実際の試験では毎回違った換算が行われるが、各試験ごとの換算値は公表されていない。
つまり、TOEIC運営側には非常に大きな得点調整マージンが確保されているわけだ。こういう場合は、運営側がその力をどのように利用するのか、相手の視点に立って考えてみることが重要だ。将棋指しは頭の中で将棋盤を回して、相手の立場に立って考えるらしいが、同じ戦略はTOEIC受験でも有効だ。
現時点であえて嘘をつくメリットはない
まず、運営側は公式に「難易度は変化なし」と言っている。新形式になって、いきなり難易度を上がると、公式に嘘をついたことになるが、そうしたい理由があるだろうか?個人的見解だが、運営側はむしろなんとか難易度の変化を少なくしようと努力するだろうと考えている。なぜか?わざわざ面倒なグラフを作って説明したように、運営側は常に180点(あるいはそれ以上)の調整マージンを持っている。もし、運営側がTOEICを難しくしたいと考えているなら、新形式に変わるタイミングではなく、いつでも簡単に変える力を握っているのだ。なぜ、形式変更という時点で一気に難しくするだろう?それは、もっとも人目につく時間帯に銀行強盗をするような馬鹿な真似だ。
急な基準変更はブランドを傷つける
さらに、TOEIC得点の難易度が急に変更されると、いろいろな社会的混乱が予想される。たとえば、新入社員には500点を超えるまで毎回受験するように命じている会社もあるし、主任試験にはTOEIC700点が課せられている会社もある。ある点数をとっていれば、英語の試験が免除される大学もある。決定的なのは国家公務員採用総合職試験における英語試験の活用について – 人事院(pdf) だろう。この資料によれば、国家公務員採用試験において、TOEIC600以上で15点加算、730点以上で25点加算、となっている。ここまで、TOEICスコアが英語力の基準として社会的に認知された今、いきなりその基準を混乱させて、TOEIC運営側になんの益があるのだろう?むしろ、試験形式変更時点では、必死になって軟着陸させたいと考えていても不思議ではない。
なぜ、難しくなると思うのか
難しくなるという印象を受けるのは、まず、事実としてパート1,2,5 が減り、パート3,6,7が増えている。1,2より3が難しく、5より6が難しく、7で時間がなくなる、という経験をしたことがある受験者は当然「難しくなるだろう」と予想するに違いない。しかし、繰り返しになるが、問題自体の難易度と得点は直結しておらず、採点側に非常に大きな裁量権がある。つまり、問題が受験者全員にとって難しくなっていれば、通常の得点域の人には影響があまり出ないように調整されるはずだ。現在、満点継続中でいつ985点になるかが気がかり、というような人でもないかぎり、不必要におびえることはない。
繰り返し: 過度な不安は禁物
前回書いたように不安になり過ぎれば、実力が出せず、人より悪い点になるかもしれない。自分だけ素点が下がれば、不安が現実のものとなってしまう。それは試験そのものではなく、自分の心が招いた結果だ。もしかすると、それを狙って不安をまき散らしてやれ、という悪い奴がいて、今まさに、あなたはその術中にまんまと、はまっているのかもしれない。ペースを乱さず、いつも通りに勉強し、平静な心で試験に挑もう!